この年末年始を利用して、アガサ・クリスティーの『春にして君を離れ』を読み終わりました。
この本は推理小説ではありません。
しかし、もしあなたが夫婦関係や子供との関係に悩んでいるのであれば、これは読むことをおすすめしたい一冊です。
なぜならら、この作品に描かれている主人公のあり方に解決のヒントがあるかもしれないからです。
そんな視点で、今回はこの本のレビュー(ネタバレ含め)を書きたいと思います。
アガサ・クリスティー『春にして君を離れ』
アガサ・クリスティーといえば推理作家として有名ですね。
しかし、この『春にして君を離れ』は推理小説ではありません。
事件で人が死ぬようなことも起きません。
推理小説で感じるドキドキ感の代わりに、この物語の読了後には、ある種の「哀しさ」を感じることでしょう。
その哀しさは、主人公(女性)の夫との心のすれ違い、子供達との心のすれ違いから起きるものです。
アガサ・クリスティー
ちなみにこの作品が書かれたのは1944年8月。今から75年も前のことです。
しかし人間の心やあり方の問題は、75年たっても変わらないものがあります。
『春にして君を離れ』あらすじ
主人公はジョーン・スカダモア。弁護士の夫を持つ3人の子供の母親です。
子供は息子が1人と娘が2人ですが、子供達は全員独立して家を出ています。(子供達が小さい頃はお手伝いさんを雇うことができるほどの裕福な家です。)
ジョーンは自分達が幸せな家族だと信じています。
ある日、ジョーンは下の娘夫婦が住むイラクのバグダードに訪れます。
そしてバグダードからロンドンに帰る途中、交通機関の支障のため、ある砂漠の町で足止めをくらうことになってしまいます。
その間、彼女は手持ちの本を読んだり手紙を書いたりしますが、多くの時間をその砂漠での散策に費やします。
散策の中、彼女はこれまでの自分の人生を振り返ることになります。そしてハッとするのです。
彼女は家族を愛していて、家庭を健全に運営して実務的に対応しているという自負がありました。
しかし、実はそれが彼女の勝手な思い込みであり、結局は、旦那さんや子供さんの心情に配慮しない「自己中心的」なものだったのです。
彼女は旦那さんや子供達との過去の出来事を思い出し、「ハッ」とします。そして、実は旦那さんや子どもたちとの間には亀裂があり、距離があることに気づいてしまうのです。
その事実に狼狽し、家に戻ったら旦那さんに謝り、新しい夫婦関係、家族関係を築いていこうと心の中で誓います。
しかし、イギリスの家に戻ると彼女は以前の「自分は正しいことをしている」と信じて疑わない自己中心的なジェーン・スカダモアに戻ってしまいます。
旦那さんであるロドニーはそれを見て心の中で
君はひとりぼっちだ。これからもおそらく。しかし、ああ、どうか、きみがそれに気づかずにすむように。
とつぶやきます。
自分が誠実に接し、愛していると信じている旦那さんにこのように思われてしまっているのです。
物語はこれで終わります。
推理小説と違い、この夫婦の「心のすれ違い」は解決しないまま終わるのです。
哀しいですよね。
妻としてのジョーン・スカダモア
ジョーンの旦那さんのロドニーは弁護士さんです。
しかし彼は弁護士の仕事は大嫌いで、農場経営を夢見ていました。
ジョーンの中には「農業なんて」という思いがあり、彼の夢を断念させます。そのことについて彼女は「夫の無軌道を諌めた」「良いことをした」と信じています。
子供が生まれてからは、子供達には日当たりの良い部屋を与えた方がいいとジョーンは提案し、ロドニーの仕事部屋を変えさせてしまいます。
ロドニーは理性的で賢い男性です。あまり波風を立てず、最終的には妻であるジョーンの言うことを聞く旦那さんです。
この他にも、夫婦の心のすれ違いをあらわすエピソードはいくつか出てきます。
リスクはおかさず慎重であることがジョーンにとって正しい生き方であり、それを夫であるロドニーも同意するべきだと信じて疑わないというのが、「妻」としてのジョーンの性格のようです。
面と向かって反論し続ける夫ではないため、ジョーンは彼も賛同してくれていると信じています。
母としてのジョーン・スカダモア
ジョーンとロドニーには3人の子供がいます。
一番目は長男のトニー、二番目は長女のエイブラル、そして次女のバーバラです。
ジョーン・スカダモアと長男の関係
ジョーンは長男が父親のあとを継いで弁護にになることを望んでいましたが、農科大学を卒業後アフリカに渡り、農園を経営し、そこで結婚をします。
ジョーンは長男が農業をすることに反対でしたが、父親であるロドニーは息子のこの夢を応援していました。
ちなみに、長男は母のことを
「ときどきお母さんって、誰についても何も知らないんじゃないかって思うことがあるんだ……」
と表現しています。
ジョーン・スカダモアと長女の関係
長女のエイヴラルは理知的な性格で冷ややかな目で母であるジョーンを小さい頃から見ています。
「お母さまは、あたしたちのために何をしてくださるの?」
子供が小さい頃、食事を作ったり、夜寝かしつけてくれたり、朝起こしてくれたり、服を作ってくれたり、散歩に連れていってくれるのは、全てナニーがしてくれていたことでした。
その割には、ジョーンは旦那さんの仕事を手伝うわけでもありませんでした。(お金を稼ぐのは実質、夫のロドニーです)
・・・確かにつっこみたくなりますよね💦
長女はブローカーと結婚してロンドンで暮らしていますが、かつては年上の妻のいる女性と恋に落ちます。頭ごなしに怒るジョーンと異なり、父親のロドニーは思慮深い言葉で彼女を諌めます。
ジョーン・スカダモアと次女の関係
結婚した次女のバーバラはイラクで子供が生まれます。しかし病気をしてしまい、それを見舞うためにジョーンがイラクへ出かけました。
ところがバーバラは母親が来ることを歓迎していませんでした。
彼女は母親がバグダードを発ち、イギリスに向かった日、父親にこんな手紙を送りました。
お母さま一流のやりかたで、あたしたちの生活を改革しなければおさまりがつかないのですから、こっちはもう気が変になりそうでした。
ここでも、ジョーンは「正しい」と信じたことを押し通していたことがうかがい知れます。
ちなみに、バーバラが幼い時に、ジョーンは自分が好ましくない子供達とバーバラが友達になったことに対して苦言を呈したというエピソードがありました。
バーバラは父との関係は良好で
ダディーのようなお父さまをもって、本当によかったと思います。
と手紙に書いています。
ジョーンは子供達を一生懸命に育て、良かれと思った教育をしてきました。
ところが3人の子供達にとって、母親であるジョーンは「自分達を理解してくれていない」母親であり、疎ましいとさえ感じています。(母親からしたらショックなことですよね。)
しかし一方で、3人とも父親とは良好な関係を築いていました。
アガサ・クリスティー『春にして君を離れ』で学んだ夫婦関係
主人公のジョーン・スカダモアは、冒険をせず、手堅い道を選ぶ女性として描かれています。
「正しい」と信じ込んだたら猪突猛進で、他者の考えや価値観を受け入れないという彼女の意固地さが(子供達との関係は勿論)、夫婦の関係も危うくしてしまっています。
勿論、旦那さんに堅実な道を歩んで欲しいというのは、妻であれば当然のことです。
しかし、あなたに夢があるように、旦那さんにも夢があることでしょう。希望だってあることでしょう。
それがたとえ実現不可能なことであったとしても、最初から「否定」的な反応をされたら、人は「寂しい」と思うものではないでしょうか。

私もついつい旦那さんに、「そんなのくだらない〜」と、頭ごなしに否定から入ってしまうことがあるので反省しました。
人は忙しければ、相手の気持ちを推し量る余裕がありません。でも、それは本当はNGなことですよね。

この物語の夫ロドニーのように、「うちの奥さんは何言っても無駄、分かってくれないし」なんて思われないようにしなくては!(汗)

「言っても無駄だけど、今更波風立たせるのも面倒だしなぁ」って思われて、仮面夫婦の道には進みたくないものです。
✔自分が正しいと信じる道を進みつつも、相手(家族)の気持ちにも敏感になろう♪
✔相手(家族)の弱さを赦そう
「春にして君を離れ」を一言で表すなら、「流血がない悲劇作品」または「人の心を解くミステリー小説」と言えるでしょう。
勿論、女性だけではなく男性にもおすすめの一冊です♪
レビューをお読みくださり、ありがとうございました。
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